私は昔から、IT技術で作業をラクにすることが好きでした。
同じことを何度も繰り返すより、ボタンひとつで済むようにできたら気持ちがよいです。
その気持ちよさで誰かを助けてこそ、本当の満足につながるんじゃないか──と。
そんな思いを実感できたのが、町内会の会計・決算処理を自動化したこの経験です。
身近な場面で技術を活かし、人に喜ばれることの嬉しさを改めて感じました。
この記事では、そんな体験を少しだけ紹介したいと思います。
きっかけはお祭りの準備中に声をかけられて
夏のお祭りの準備で、テントの設営や配線を手伝っていたときのことです。
同じ町内のAさんが声をかけてくれました。
「ひろさん、ITに詳しいんですよね? ちょっと相談があって……」
聞けば、これまで会計を担当していた方が引っ越してしまい、Aさんが新しくその役を引き継ぐことになったとのこと。
ただ、これまでのやり方では集計に時間がかかり、決算書の作成にも苦労しているそうです。
「Excelで少しでもラクにならないかな?」──そんな相談が、この取り組みのきっかけでした。
町内会の会計をラクにする仕組みづくりの流れ
町内会の会計を自動化する――といっても、最初から完成形が見えていたわけではありません。
どのようにすればITスキルのない人でも簡単に入力できて使いやすいのか。
少しずつ考え、手を動かしながら形にしていきました。
ここからは、その過程を振り返ります。
現状を知ることから始めた
まず取りかかったのは、今のやり方を理解することでした。
どんな帳票を使っているのか、どの数字を手で転記しているのか、どこに時間がかかっているのか。
紙の台帳とExcelの両方を見せてもらいながら、「この金額はどこからきているのか?」を一つひとつ確認。
現場の作業を丁寧に追うことで、自然と「どこを自動化すべきか」が見えてきました。
システムを作る前に、まず“人の作業を理解する”──これは本業でのシステム開発でも大切なことです。
とりあえず動くものを作ってみる
構想が固まったら、すぐにExcelで試作しました。
印刷やデザインは後回しで、まずは操作感と集計の結果がわかる最小限の形を作成。
Aさんに実際に入力してもらい、
「ここは入力しやすい」
「ここは自動で出せないかな」
といった意見をその場で反映しました。
何度かやり取りを重ねるうちに、会計処理の流れが自然に整理され、「使いやすさ」に近づいていくのを感じました。
町内専用に割り切る
設計を進める中で意識したのは、汎用性よりも使いやすさと分かりやすさ。
他の町内でも使えるように、とか、いろいろ拡張、カスタマイズできるように……と考え出すと、どうしても操作を犠牲にしたり、処理が複雑になります。
これはITエンジニアの経験もあり、「この町内専用に特化」という前提にしました。
担当者が迷わず使えて、誰が見ても理解できるシンプルな構成に。
必要最小限のマクロで、入力と集計を自動化しました。
完成後、Aさんが「これなら私でもできる!」と喜んでくれたとき、「ああ、やってよかった」と心から思いました。
入力の工夫 → 慣れるほど速くなる仕組み
入力の部分でも、少し工夫をしました。
費用の明細を入力するときに、最初は勘定科目をプルダウンメニューから選ぶ方式にしていたのです。
ただ、毎回入力する明細数が多いので、慣れてくると毎回のマウスでチクチク選択するのはかえって手間になると考えました。
そこで途中から、勘定科目の番号を直接入力する形式に変更。
最初は番号表を見ながらの入力になりますが、数回使えばよく使う番号は自然と覚えます。
慣れてしまえば、メニューから選ぶよりずっと速く、ストレスも少ない。
Aさんも最初は「メニューで選ぶほうが間違わなそう」と心配していましたが、実際に使ってみると「これ、思ったより便利ですね」と感心されていました。
これまでのITエンジニアとしての経験が、“ラクにしてあげられる”ことにつながったのがうれしかったですね。
お金の流れを“見える化”する仕組みへ
もう一つ、取り組んだのがお金の運用の見直しです。
Excelに入出金の明細を入力しても、もとになるデータがあいまいでは正確さが保てません。
領収書や入金メモなどを一枚ずつ確認するのも手間がかかり、あとから整合を取るのが大変でした。
そこでAさんと相談して、すべての入出金を町内の銀行口座を経由する形にすることにしました。
こうすることで入出金の履歴を口座履歴から確認できます。
あとからExcelに入力した間違いや漏れもすぐにわかるので、とても効率的。
若い世代はスマホからすぐに振り込みができて、むしろこれまでより便利。
一方で、高齢の方にとっては操作が難しく、わざわざ銀行やコンビニまで行かなければなりません。
そこで、これまで通りAさんが現金で受け取ったあとにAさん自身が銀行に振り込む方法をとりました。
こうすることで、通帳の取引履歴から「誰が、いつ、いくら入金したか」がすぐに分かります。
もちろん銀行の手数料はかかります。
でも、あとで混乱することを考えれば、確実に確認でき安心感という大きなメリットのほうが上回ります。
この変更で、入力ミスや確認の負担はぐっと減り、Aさんも「これで気がラクになった」と喜んでくれました!
どのようにシステム化するかだけでなく、運用も意識することが大切ですね。
この経験で感じたこと
ここまでの取り組みを通して感じたのは、単にExcelで自動化をしたという話ではない、ということです。
人の作業を理解し、どうすれば気持ちよく使ってもらえるかを考える過程そのものが、あらためて学びの連続でした。
最後に、実際に感じたことを少しだけまとめてみます。
技術よりも大切なもの
今振り返ると、この取り組みで一番大事だったのは技術力よりも“考え方”でした。
どんな仕組みを作るかより、“何を自動化するか”、“どうすれば使いやすいか”を見極めること。
そして、“人が安心して使える形”に落とし込むこと。
当時はまだ生成AIがなかったので、マクロのプログラミングも必要でしたが、今なら生成AIを使えばマクロはスキルがなくても短時間で作れます。
でも、その前提となる設計の意識──「どこに困りごとがあるか」、「どうすれば使いやすいか」を見抜く力──は、人の経験や観察が大事なのです。
この経験が、自分の中の“技術の意味”をもう一度問い直すきっかけになったように思います。
感謝の言葉に救われた
このシステムができて最初の決算作業が終わったあと、Aさんから「ほんとうに助かりました」、「他の町内の人も欲しいと言ってた」と喜んでいただけました。
その一言が、想像以上に心に残りました。
本業では法人のシステム開発が中心で、そのシステムの利用現場から直接感謝の声を聞くことはあまりありません。(トラブルでのクレームはまれにありましたが。)
今回は、ちょっとしたシステム開発ですが、これまであまり得られなかった、“誰かに直接感謝される”ということを強く実感できたのです。
自分のスキルが、人の時間や気持ちを軽くできた──
その喜びは、本業でのシステムの完成よりもずっと大きなものでした。
まとめ:身近な場所こそ、技術の出番
大きな技術や派手なシステムでなくても、身近な人を助けることはできる。
Excel一つでも、使い方次第で誰かの負担を減らし、笑顔を増やせる。
そんな体験を通して、技術は人のそばでこそ生きると改めて感じました。
今回のケースのようなことが私の満足感、充実感を満たせるんですね。
これからも、こうしたIT技術で人に感謝されることを積み重ねていけたらと思います。
コメント